T&S Asset Management

2026-W40 · 対象期間:2026年9月21日〜2026年9月27日

東南アジア週次:ADBが域内成長見通しを小幅上方修正、各国で与信の質と規制・データ基盤の整備が焦点に

1. 今週の要点

2. 国別の主要な動き

カンボジア

信用情報機関CBCによると、2026年3月末のSME向け融資残高は374.4億ドル(前期比+0.9%)とほぼ横ばいで、申込金額は前期比−5.1%、90日超延滞比率は7.7%(前期(2025年末)7.1%から上昇)となった。いずれも前期比のみで前年比は得られず、季節性は排除できない。中央銀行NBCベースのNPL比率は2025年末8.9%(前年末7.4%から上昇)、2026年6月末9.6%と上昇が続く。2025年の海外送金流入はNBC統計で21億ドル(前年比−23.6%)、労働職業訓練省推計で18.6億ドル(2024年29.5億ドルから−37%)と、出所により減少率が異なる。NBCと国連の過剰債務対策は、2025年9月時点で優先行動22項目のうち10件が完了。NBCは2026年7月7日に関係省庁と進捗を点検したが、更新後の完了件数は公表されていない。

ベトナム

ADBは2026年の成長見通しを7.8%(従来7.2%から上方修正)、インフレ見通しを4.3%(従来4.0%から上方修正)とした。銀行信用はGDP比145%(2025年末)で、ADBは預貸率の高さ、薄い資本、期間のミスマッチが急速な信用拡大の余地を狭めていると指摘した(危機が差し迫っているとはしていない)。上場27行の要注意債権比率は1.38%(2025年末1.17%から上昇、2四半期連続の上昇)、NPL比率は2.01%(2026年第2四半期)。上場行は2026年に合計128兆ドン(約49億3,000万ドル)の資本金増加を計画しているが、株式配当や準備金からの振替を含み、すべてが新規の外部資金ではない。税務総局と国家信用情報センター(CIC)がデータ共有の協力協定に署名したが、対象データの範囲・融資での使い方・時期は未定。

タイ

下院は9月23日、破産法改正案を賛成444・反対0(棄権1、不投票1)で可決した。債務10万バーツ以上の個人(定期的な月収のない農家やフリーランスを含む)が再建手続を利用できるようになり、債権者の十分な支持がなくても裁判所が計画を認可でき、申立てにより訴訟・差押えが停止される。施行は官報掲載から180日後の予定で、9月28日予定の上院審議の結果は未確認。ADBは2026年の成長見通しを2.0%(7月時点1.8%から上方修正)、2027年を1.9%(7月時点2.0%から下方修正)とし、信用リスクの高さから消費者向け融資が縮小していると指摘した。家計債務はGDP比85.9%(2026年第1四半期)。

ラオス

労働社会福祉省によると、海外のラオス人労働者からの送金は2026年1〜7月で5億70万ドル。前年比較は公表されておらず、増減は判断できない。登録された海外労働者は2026年9月時点で11万2,436人(2025年14万9,294人から約25%減)だが、統計の取り方の変化による可能性もある。アフリカ豚熱(ASF)は拡大が続き、9月24日時点で死亡・殺処分は1万4,002頭(1週間足らず前の前回報告1万1,369頭から約23%増)、影響を受けた豚の79%超が家族経営の農家、推計損失は588億キープ超(約260万ドル)。損失額は国全体では小さく、借り手単位の影響は確認されていない。

ミャンマー

ADBは2026年度(2026年4月〜2027年3月)の実質成長見通しを2.2%(7月時点2.4%から下方修正)とし、インフレ見通しは24.0%(7月時点から据え置き)と高水準のままとした。成長見通し下方修正の理由として、中東情勢に伴う燃料高と物流の混乱、需要の弱さ、輸入制限による投入財不足、生産コスト上昇による製造業の停滞を挙げた。統計の信頼性には限界がある。

フィリピン

中央銀行BSPは通達(Circular No. 1240、9月21日付)で、デジタル銀行に近い業態の貯蓄銀行・地方銀行・協同組合銀行に、デジタル銀行と同じ最低資本10億ペソを通知から半年以内に求め、既存行がデジタル銀行免許へ転換する道も開いた(通達原文と対象基準は未確認)。GCash運営会社Myntは、IPOで20超のコーナーストーン投資家から365億ペソ(基本売出の約68.8%)を確保。募集規模は最大803億ペソで、10月20日上場予定だが価格は未確定。GCashの利用者は約4,900万人。BSPの消費者信頼感指数は7〜9月期−29.8%(4〜6月期−42.0%から改善)でマイナス圏にとどまり、10〜12月期の見通しは−0.8%。一方、7月の失業率は6.0%(2025年7月5.3%から上昇)。既存研究の解説として、2009年から2010年のマイクロファイナンスでの無作為化試験では、SMS督促は平均では返済を改善しなかったが、担当者名入りの督促は同じ担当者から繰り返し借りた顧客の延滞率を5.5ポイント(約41%)下げた(サブグループ分析の結果)。

インドネシア

インドネシア銀行(BI)は9月23日、ルピア安定を優先し政策金利BI-Rateを5.75%(据え置き(3会合連続))とした。決済会社DOKUは共同創業者のCEO就任と「DOKU by Antom」へのブランド変更を発表。報道ベースの持株比率を掛け合わせると、アント側の実質的な経済持分は約66%(当社試算、議決権構造は未確認)。DOKUは加盟店30万超を持ち、自社名義・自社ライセンスでの運営を続ける。発表に融資参入の計画は含まれない。金融サービス庁(OJK)はマイクロファイナンス機関(LKM)規則(POJK 41/2024)に償却規定を追加する方針で、不良債権に分類され100%引当済みであることを条件とし、部分償却は認めない。2026年第4四半期の公布予定(報道ベースで、草案は未確認)。

マレーシア

9月18日から発行された新しいMyKad(身分証)が、複数事業者のeKYCで認識されていない。国家登録局は各事業者がシステムを更新中としたが、解消時期は示していない。eKYC技術ベンダーの検証では、TNG eWallet、Ryt Bank、AEON Bank、GXBankで認証に失敗した。民間信用情報機関CTOS Digitalは9月23日、消費者事業を支える環境への不正アクセスを検知し、一部の消費者情報を含むファイルが閲覧されたとブルサ・マレーシアに開示した。影響人数やデータの種類は非公表で、一部の信用レポートサービスが一時停止した。同社は重大な財務影響はないとしている。

シンガポール

人材省によると、2026年第2四半期の人員削減は4,620人(第1四半期3,830人から790人増)、削減された居住者の半年以内の再就職率は54.9%(前期60.7%から5.8ポイント低下)。6月の居住者失業率は2.9%と低く、求人数は失業者数を上回っている。8月のMASコアインフレ率は2.2%(7月2.0%から上昇)。MTIとMASは2026年のインフレ率を1.5〜2.5%と見込み、コアは2027年半ば頃から鈍化するとしている。信用情報会社Experianが委託した調査(シンガポールの回答者482人、販促目的の可能性があるベンダー調査)では、83%がAIによるローン比較を信頼し、49%がAIエージェントによる申込を容認すると回答した。

ブルネイ

ADBは2026年の成長見通しを1.2%(7月時点の1.8%から下方修正)とし、域内で最も低い水準の一つとなった。炭化水素の増産が非石油部門の弱さを補いきれないとしている。家計債務や延滞への言及はない。

東ティモール

ADBは2026年の成長見通しを4.0%(7月時点の3.8%から上方修正)とし、政府支出の増加、信用の伸び、ASEAN加盟後の投資家心理の改善を挙げた。IMFも2026年を4.0%と予測する一方、現行政策のままでは石油基金が2030年代後半に枯渇しうると警告し、新銀行法、倒産制度、動産担保登記の進展を評価した。

東南アジア全域

ADBのアジア開発見通し(9月23日公表)は、東南アジアの成長率を2026年4.7%(7月時点の4.6%から上方修正)、2027年4.9%(7月時点の4.8%から上方修正)とした。修正幅は小さく予測誤差の範囲内。エルニーニョが2027年第1四半期まで続き食料・エネルギー価格を押し上げる可能性のほか、地政学的対立、AI関連株の調整、金融環境の引き締まり、通商政策の不確実性を下振れリスクに挙げた。

3. 日本企業・投資家への示唆

参入参入の入口要件が各国で具体化している。フィリピンでは、デジタル型の業態をとる小規模銀行にもデジタル銀行と同じ最低資本10億ペソが求められる一方、デジタル銀行免許への転換経路も示された。小規模銀行への出資・買収を通じて参入を検討する日本の銀行・フィンテックは、対象行が規制対象に当たるか、資本要件を満たせるかを事前に確認する必要がある(対象基準は未確認)。タイの破産法改正案は上院審議と施行時期が未確定で、オートローンやリースで参入・拡大を検討する日本のリース会社・金融機関は、施行後の回収条件を前提に事業計画を組む必要がある。マレーシアの新MyKadのeKYC不具合は、外部ベンダーに本人確認を依存するデジタル融資では、身分証の仕様変更時に申込が滞りうることを示している。
提携データ連携が現地提携の主要論点になりつつある。ベトナムでは税務当局とCICのデータ共有合意(範囲・時期は未定)と、信用情報の第三者提供に検証可能な形での明示的同意を求めるSBV通達(Circular 46/2026/TT-NHNN、2026年11月1日施行)が同時期に進む。現地の銀行・信用情報機関と与信モデルやデータ連携で組む日本のフィンテック・商社系金融事業は、同意取得と記録の責任分担を提携契約の段階で決めておくことが求められる。マレーシアのCTOSの事案は、信用情報機関を含む外部データ提供者のセキュリティと障害時の代替手段を、提携先評価の項目に含める必要性を示す。インドネシアのDOKUのように、決済パートナーの株主構成やブランドが変わる例もあり、提携先の資本関係の継続的な確認が要る。
投資検討材料となる事実を整理する(投資判断の推奨ではない)。ベトナム上場行の資本金増加計画128兆ドン(約49億3,000万ドル)は株式配当や準備金振替を含み、第三者割当など新規払込に比べて規制上の自己資本比率への効果は小さい可能性がある。株主・SBVの承認も必要。フィリピンのMynt IPOではIFCなどがコーナーストーン投資家として参加したが、価格は未確定で、市場環境により価格引下げや規模縮小もありうる。カンボジアではNPL比率や送金流入の数値が出所により異なり、リストラ債権の規模も出所で大きく差があるため、MFIや銀行の評価では定義と出所をそろえた比較が必要になる。
リスク与信の質の悪化を示す指標が複数市場で出ている。カンボジアはNPL比率9.6%(2026年6月末)に加え、SMEの90日超延滞比率が7.7%に上昇。ベトナム上場行の要注意債権比率は二四半期連続で上昇したが水準は1.38%と低い。フィリピンは失業率6.0%と消費者ローンNPL比率の小幅上昇、シンガポールは人員削減の増加と再就職率の低下が見られるが、失業率は低い。タイの破産法改正案では、裁判所による計画認可と申立て時の差押え停止が債権回収の実務に影響しうる(早期の再建で最終損失が小さくなる可能性もある)。このほか、ミャンマーの高インフレ(見通し24.0%)、ラオスのASFによる農家への影響、ADBが挙げたエルニーニョによる食料・エネルギー価格の上昇リスクがある。

4. T&S View(当社の見解)

この節は当社の見解で、上の事実とは分けて記載しています。

以下は事実ではなく、当社(T&S)の見解です。当社の見解として、今週の三本のT&S View記事に共通するのは、需要や成長見通しの改善よりも、与信の基盤整備を先に進めるべきという点である。カンボジアでは、土地担保や過剰貸付のモデルに規制と国際的な監視が逆風となるなか、キャッシュフロー型融資には可能性があると当社は考える。ただし金利上限の下では単位コスト次第で小口・短期の融資は一件ごとに赤字になりうること、口座保有率が39.0%(2024年)にとどまり、銀行取引明細による審査で届く層が限られることが制約になると見ている。ベトナムについては、データ活用と同意管理を一つの設計課題として扱うべきと考えるが、データ範囲や細則が未確定のため、この見解には大きな不確実性がある。フィリピンについては、消費者信頼感の改善を受けた需要の回復に応じる前に、貸し手は審査と回収体制を見直すべきと考える。ただし月次のNPL上昇幅は小さく、傾向と断定するには早い。

5. この週の英語記事(原本)

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本レポートは情報提供を目的としたもので、投資助言ではありません。 調査の方法:出典・検証・定義