2026年10月19日
回収は、貸す前に設計する:事業会社の貸付で最初に決める4つのこと
T&S Asset Management
貸付の損益は、回収で決まる
貸付を始めるとき、検討の中心はたいてい「誰に、いくら貸すか」です。審査の基準、金利、貸付の上限が先に議論されます。
しかし、貸付の損益を最後に決めるのは、貸したお金がどれだけ、どれだけの手間で戻ってくるかです。審査がどれほど丁寧でも、遅れた返済への対応が決まっていなければ、延滞は放置され、損失と手間が積み上がります。
回収は、延滞が起きてから考えるものではありません。貸す前に設計しておくものです。
1. 返済をどう受け取るか
返済が遅れる理由の多くは、払う意思がないことではなく、払う手段や時期が借り手の生活や商売に合っていないことです。
- 受け取る手段:口座引き落とし、銀行振込、電子マネー、店頭での支払いなど、借り手が普段使っている手段に合わせます。
- 返済日:給料日や、取引先からの入金日に合わせます。販売店向けの運転資金なら、売上の入金サイクルに合わせるのが自然です。
- 入金の照合:誰の、どの返済かを自動で照合できる仕組みにします。照合が手作業だと、入金済みの借り手に督促してしまう事故が起きます。
返済の受け取り方は、延滞率そのものを左右する、最初の回収策です。
2. 遅れたときに、誰が、いつ、何をするか
延滞への対応は、日数ごとの手順として決めておきます。
- 返済日の前:返済日が近いことを知らせます。
- 遅れた直後:まずは連絡がつくかを確かめ、遅れた理由を聞きます。一時的な事情なら、返済日の変更で済むこともあります。
- 一定期間を過ぎたら:返済計画の見直しや、担当者からの直接の連絡に切り替えます。
- 最後の段階:法的な手続きや、外部への委託を検討します。
大切なのは、それぞれの段階で「誰が判断するか」と「何を記録するか」を決めておくことです。返済条件の変更や減免は、担当者一人で決めず、承認を通す形にします。
3. 本業との線引き
事業会社の貸付では、借り手が本業の顧客や取引先でもあります。ここに、銀行にはない難しさがあります。
- 督促の言葉と頻度:回収のやり方は、親会社の名前で見られます。本業の顧客対応と同じ水準で、言葉づかいと連絡の頻度を決めておきます。
- 取引との連動:延滞した取引先への出荷を止めるのか、続けるのか。本業の営業担当と回収の担当で判断が割れないよう、ルールを先に決めます。
- 担当の分離:本業の営業担当が、自分の顧客の延滞を見逃したり、条件を緩めたりしないよう、回収の判断は営業から切り離します。
国によっては、督促の時間帯や方法、第三者への連絡に規制があります。手順は、各国の規制に沿って作る必要があります。
4. 何を記録するか
回収の記録は、後から3つの場面で問われます。
- 監査:返済条件の変更や減免を、誰が、いつ、なぜ承認したか。
- 紛争:借り手とのやり取りで、何を伝え、何を合意したか。
- 改善:どの段階の対応で、どれだけ返済が戻ったか。
この3つに答えられるよう、連絡の履歴、約束した返済日、条件の変更と承認を、貸付ごとに残します。記録が後から書き換えられない形で残っていれば、監査にも紛争にも耐えられます。
貸す前の確認リスト
- 返済の受け取り手段と返済日は、借り手の収入の時期に合っているか
- 入金を自動で照合できるか
- 延滞の日数ごとに、誰が何をするかが決まっているか
- 返済条件の変更と減免に、承認の手順があるか
- 督促の言葉と頻度、本業の取引との連動ルールが決まっているか
- 各国の督促に関する規制を確認したか
- 連絡と承認の記録が、貸付ごとに残るか
回収の設計は、貸付を始める前の検討のなかで最も後回しにされやすく、最も作り直しが難しい部分です。最初の1件を貸す前に決めておくことをおすすめします。