全7回 · 第1回
消費者物価:総合、コア、ベース効果
消費者物価指数は、家計の費用について最も注目される数字です。貸し手が正しく読むには、何が品目に入っているか、そこから物価上昇率をどう計算するか、コアの物価上昇率が何を除いているか、そして物価が動かなくても上昇率が動くのはなぜかを知っておく必要があります。
公開 2026年10月12日 · この回を音声で聞く
指数は何を測っているか
国際通貨基金(IMF)、国際労働機関(ILO)、欧州連合統計局、経済協力開発機構(OECD)、国連欧州経済委員会、世界銀行が2020年に公表した「消費者物価指数マニュアル」は、消費者物価指数を、家計が取得する財とサービスの価格の全般的な水準が時間とともにどう変わるかを測るもの、と説明しています。実際には、指数はウェイト(比重)を固定した財とサービスの品目の費用を追っています。
それぞれの品目は、ウェイト、つまり家計の支出に占める割合に応じて数えられます。マニュアルは、ウェイトの主な出どころの一つとして家計の支出に関する調査を挙げ、少なくとも5年ごとにウェイトを更新すべきだとしています。やり方は市場によって異なります。フィリピンでは、統計庁が家族所得・支出調査に基づいてウェイトを決め、指数の基準を改定するまでウェイトを固定し、基準の改定は6年ごとに行っています。
指数から物価上昇率へ
指数は、基準となる期間を100としています。ふつう報じられる物価上昇率は、12か月の間の指数の変化で、フィリピン統計庁はこれを、指数の前年同月比の変化を百分率で表したもの、と定義しています。
前年同月比の物価上昇率(%)=(今月の指数 ÷ 1年前の同じ月の指数 − 1)× 100
計算例(数字は説明のための例です):今月の指数が112.2、前年の同じ月が108.0なら、112.2を108.0で割って1を引き、100を掛けて、物価上昇率は約3.9%です。前月比の変化は、今月を先月と比べます。動きは早く表れますが、食料などの価格に季節的な動きがあるため、ぶれが大きくなります。
総合とコア
総合の物価上昇率は、品目のすべてを含みます。コアの物価上昇率は、価格が大きく振れる品目を除き、基調となる動きを見やすくしたものです。どこで線を引くかは、市場ごとに異なります。
- フィリピン。統計庁のコア指数は、穀物、一部の肉、魚、生鮮食品、電気、燃料など、価格が振れやすい品目を除いています。
- インドネシア。インドネシア銀行は、持続的な部分と位置づけるコアの物価上昇率を、価格の変動が大きい食料と、統制価格から分けています。統制価格は、補助金付きの燃料、電気料金、運賃など、主に政府の価格政策によって動きます。指数はインドネシア統計局が計算しています。
- タイ。タイ中央銀行は、総合の物価上昇率を、ウェイトが約17%の生鮮食品、約13%のエネルギー、約70%のコアに分けています。金融政策の目標は総合の物価上昇率で定められ、範囲は1%から3%です。
貸し手にとっては、どちらも大切です。総合の物価上昇率は、家計が実際に支払うものです。コアの物価上昇率は、中央銀行が政策金利を決める際に注視する、物価の基調を読む助けになります。
ベース効果
ふつうの上昇率は1年前の同じ月と比べるので、今年の価格と同じくらい、昨年の価格も効いてきます。欧州中央銀行は、ベース効果を、12か月前に起きた異例に大きな前月比の変化が比較から外れるときに、前年同月比の物価上昇率に及ぶ影響、と説明しています。
計算例(数字は説明のための例です):指数は100でしたが、昨年3月に燃料価格の引き上げで105になり、その後は105のままだとします。今年2月の物価上昇率は、105と100を比べて5%です。今年3月は、どの価格も変わっていないのに、105と105を比べてゼロになります。上昇率が5ポイント下がったのは、何かが安くなったからではなく、昨年の上昇が比較から外れたからです。
貸し手としての数字の読み方
- 上昇率だけでなく水準を見る。物価上昇率が下がっても、価格の上がり方が鈍っただけで、価格が下がったわけではありません。家計は、収入が最後に見直されてからの上昇分をすべて背負っています。
- 反応する前にベース効果を確かめる。上昇率の急な上下は、昨年の価格から来ていることがあります。
- 問いに合った指標を使う。家計の費用には総合を、政策金利の方向にはコアを使います。
- 同じもの同士を比べる。コアの指標は市場によって定義が異なるため、定義が同じでない限り、市場の比較は総合の物価上昇率で行います。
- 誰の品目なのかを忘れない。指数は平均的な支出を反映しており、低所得の世帯の支出の内訳はそれと異なることがあります。これは第2回で扱います。
出典
- Consumer Price Index Manual: Concepts and Methods, 2020 (chapter 1) — IMF, ILO, Eurostat, OECD, UNECE and World Bank, 2020
- Consumer Price Index and Inflation Rate: Frequently Asked Questions — Philippine Statistics Authority, 2026
- Inflation — Bank Indonesia, 2026
- Monetary Policy Report Q1/2026 (monetary policy target; contributions to headline inflation) — Bank of Thailand, 2026
- Recent dynamics in energy inflation: the role of base effects and taxes (Economic Bulletin 3/2021, box) — European Central Bank, 2021