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全6回 · 第1回

貸付の不正とは:種類、被害者、測り方

貸付における不正とは、欺くことによってお金や信用を得ることです。偽りの身元で、あるいは返すつもりなく借りられた貸付、乗っ取られたアカウント、だまされて借りたり支払ったりした顧客がその例です。この回では、不正と信用損失を区別し、主な種類とそれぞれの損失をだれが負うかを整理し、不正による損失をどう測るか、それがどのように貸倒れの中に紛れるかを示し、シンガポール、米国、欧州の日付付きの数字を読みます。

公開 2026年10月28日 · この回を音声で聞く

不正と信用損失

貸付は、2つの形で失われます。信用損失では、借り手は返すつもりでしたが、たとえば収入が減ったり、ほかの債務が増えたりして、返せませんでした。不正による損失では、お金は欺くことによって得られました。申込者が名乗った本人ではなかった、虚偽の情報を出した、あるいは初めから返すつもりがなかった場合です。失われる額は同じこともありますが、原因、したがってそれを防げたはずの対策は異なります。

この違いは、数字を読むうえで重要です。信用スコアは、本物の借り手が返済するかどうかを予測するために作られており、本物でない申込者を見分けるためには作られていません。不正による損失を通常の貸倒れとして計上すると、与信の方針が実際より悪く見え、不正が続く一方で、貸し手は本物の顧客への与信を締めてしまうかもしれません。スコアの作り方と検証の方法は、講座「信用スコアの基礎から実装まで」で説明しています。

主な種類

貸付の不正は、ふつう、だれが行うか、だれの身元やアカウントが使われるかによって分けられます。

  • 第三者による身元の不正:だれかが他人の名前や、作り上げた身元で申し込みます。金融活動作業部会(FATF)は、なりすましを、ある人が別の実在の人の身元を持っているふりをすることと説明し、合成された身元を、犯罪者が本物の(多くは盗まれた)情報と偽の情報を組み合わせて作り上げた身元と説明しています。
  • 本人による不正:申込者は自分の身元を使いますが、たとえば偽りの収入を申告したり、返すつもりなく借りたりして、貸し手を欺きます。
  • アカウントの乗っ取り:犯罪者が本物の顧客のアカウントを支配し、その顧客の名前で借りたり、お金の行き先を変えたりします。
  • 詐欺:本物の顧客がだまされて借りたり支払ったりし、そのお金を犯罪者に渡します。相手が貸し手や公的機関の職員を装っていることもあります。
  • 内部の者や提携先による不正:職員、代理店、貸付の流れにかかわる提携先が、その権限を悪用します。たとえば、偽りだと知りながら貸付を承認します。

米国の連邦準備銀行は、合成された身元による不正を、個人を特定できる情報を組み合わせて人や団体を作り上げ、個人的または金銭的な利益のために不正な行為を行うことと定義しています。FATFは、デジタルIDに関する指針の中で、適切なリスク軽減策を備えた、信頼できる独立したデジタルIDの仕組みに依拠する非対面での本人確認は、リスクが標準的な水準でありえ、より低いことさえあるとも述べています。FATFの見方では、遠隔での本人確認がもともとリスクが高いわけではなく、確認の仕組みの信頼性が決め手になります。

だれが欺かれ、だれが損失を負うか

身元の不正と本人による不正では、欺かれるのは貸し手で、ふつうは貸し手が損失を負います。ただし、身元を盗まれた人は、自分が借りていない債務について争わなければならないことがあります。アカウントの乗っ取りと詐欺では、最初の被害者は顧客であり、最終的にだれが損失を負うかは、各市場の規則と、それぞれの当事者が義務を果たしたかどうかによって決まります。

顧客自身が負担する場合がどれほど多いかを、2つの公的な数字が示しています。シンガポール警察は、2024年の詐欺の事件の82.4パーセントが、被害者がだまされた後に自ら取引を行った「自己実行型の送金」だったと報告しています。欧州経済領域では、欧州銀行監督機構と欧州中央銀行が、2024年の振込による不正の損失の約85パーセントを支払サービスの利用者が負い、その主な原因は利用者をだまして取引を始めさせる詐欺だったと報告しています。貸し手にとって、お金を失った顧客は、返済する力も弱った顧客です。

不正による損失の分類と測定

銀行の監督当局は、業務上の損失を事象の種類ごとに分類します。そうした分類を公表しているサウジアラビア中央銀行の規則集は、外部の不正を、第三者が欺く、財産を不正に取得する、あるいは法律をくぐり抜けることを意図して行った行為による損失と定義し、内部の不正を、少なくとも1人の内部の者がかかわる同様の行為と定義しています。損失を一度も不正と分類しない貸し手には、それは貸倒れとしてしか見えません。ですから、最初の仕事は、どのような場合に損失を不正とみなすかを書き定めることです。そのうえで、次のように測ることができます。

不正損失率 = 不正と確認された損失 ÷ 同じ期間に実行した貸付の金額 × 100

例となる数字を使った計算です。ある貸し手が、ある四半期に500米ドルの貸付を2,000件、合計100万米ドル実行します。そのうち60件、3万米ドル分が、最初の返済を払わず、その後も一度も払いません。調べると、そのうち40件、2万米ドル分が、盗まれた身元か合成された身元で借りられていました。2万を100万で割ると0.02なので、不正損失率は2パーセントです。調べなければ、3万米ドルのすべてが、その四半期の貸付の3パーセントにあたる信用損失として現れ、より良い本人確認で防げたはずの損失の責任が、与信の方針に負わされていたでしょう。最初の返済から一度も払われない貸付は、調べる理由であって、不正の証拠ではありません。

不正はどれほど大きいか:3つの地域の数字

貸付の不正について、国際的に比べられる指標はなく、公表されている数字は異なるものを数えています。日付付きの3つの例が、その違いを示しています。

  • シンガポール:シンガポール警察は、2024年に詐欺の事件を51,501件記録しました。2023年は46,563件でした。失われた額は少なくとも11億シンガポールドルで、前年の少なくとも6億5,180万シンガポールドルから増えました。これは、どの支払手段が使われたかにかかわらず、警察に届けられた詐欺の数字です。
  • 米国:連邦取引委員会は、2024年に消費者が不正で失ったと届け出た額が125億米ドルを超え、2023年より25パーセント多かったと報告しています。届け出たのは260万人の消費者です。これはデータベースに寄せられた届け出であり、調査の結果ではありません。
  • 欧州経済領域:欧州銀行監督機構と欧州中央銀行は、2024年の支払いの不正を、2023年の35億ユーロから増えて42億ユーロとしており、これは取引の総額の約0.002パーセントにあたります。これは支払いにおける不正で、支払サービスの事業者が報告したものです。

この3つの数字は、足し合わせることも順位をつけることもできません。被害者が届けた詐欺、消費者の届け出、支払いの不正という異なるものを、異なる通貨と対象で測っているからです。共通しているのは方向で、いずれも2024年に増えました。貸し手にとっての結論は、自らが管理する定義で自らの不正を測ること、そして公表された数字は、まずその定義を確かめてから読むことです。

貸し手として不正を読む

  • どのような場合に損失を不正とみなすかを書き定め、早い段階で返済が止まった貸付を、その定義に照らして調べます。
  • 不正による損失を信用損失と分けて、種類ごとに測ります。そうすれば、それぞれの対策をその結果で判断できます。
  • 信用スコアを作り検証するデータから不正を除くか、印をつけます。そうすれば、スコアを本物の借り手で判断できます。
  • 公表された不正の数字については、だれが報告し、何を数え、どの通貨かを必ず確かめます。
  • 詐欺では顧客が損失を負うことが多いことを忘れないでください。だれが負担するかの規則は市場によって異なります。講座「貸し手のサイバーセキュリティと不正対策の原則」では貸付の各段階での対策を扱い、マネーロンダリング対策のページではAML/CFTの動向を扱っています。

出典