全6回 · 第1回
地域を比べる理由と方法
一つの市場の数字は、それだけではあまり意味を持ちません。同じ指標、同じ定義、同じ年で近隣国や他の地域と並べて、初めて何かを語り始めます。この回では、比較のために作られたデータと、地域平均の落とし穴を説明します。
公開 2026年10月14日 · この回を音声で聞く
なぜ比べるのか
ある市場の家計債務が高い、口座保有が低い、と言うとき、明示していなくても、それは比較です。何と比べて高いのでしょうか。その答えは明示すべきです。近隣国と、他の地域と、世界と比べ、しかも同じ方法で測った数字を使います。
この講座では、東南アジアを東アジア、南アジア、欧州、北米、中南米、中東、アフリカと比べます。後に続く各市場の講座は、この比較を土台にします。
比較のために作られたデータ
いくつかの国際データは、多くの国について、一つの定義のもとで同じ指標を集めています。二つの種類を区別することが大切です。調査データは、人々に何をしているかを尋ねます。供給側のデータは、サービスを提供する機関から集めます。
- 世界銀行の世界開発指標:人口、国民経済計算をはじめ、国と地域についての多くの系列です。
- 世界銀行のGlobal Findex:160を超える国・地域で、それぞれ約1,000人に尋ねる調査です。対象は15歳以上の人で、口座、支払い、貯蓄、借入について尋ねます。
- IMFの金融アクセス調査:金融サービスへのアクセスと利用についての供給側のデータベースです。2024年の公表では192の国・地域を対象にしました。
- BISの信用統計:40を超える国・地域について、政府、非金融企業、家計への信用を示します。企業と家計を合わせた民間部門への信用については、すべての貸し手からのものと、国内の銀行からだけのものを並べて示します。インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイは、その集計グループに含まれています。
- ILOの労働統計:就業やインフォーマルな就業を、国際労働統計家会議で合意した基準で測ります。
定義と年をそろえる
世界開発指標であっても、世界銀行は、国によって統計の方法、範囲、慣行、定義が大きく異なるため、完全な比較可能性は保証できないとしています。データが示すのは傾向と大きな違いであり、細かな差ではありません。
定義は時とともに変わることもあります。第19回国際労働統計家会議が2013年に就業の定義を狭めたとき、データのある国のうち41か国では、インフォーマルな就業の比率が以前の基準のほうが高く出て、38か国では変わりませんでした。2023年には、第21回国際労働統計家会議が、インフォーマル経済の統計の新しい基準を採択しました。古い基準の数字と新しい基準の数字を比べると、実際には起きていない変化が見えてしまうことがあります。
年も同じです。ある市場の2025年の数字を、別の市場の2021年の数字と並べると、4年分の変化が比較に混ざります。すべての国で同じ年を使い、何年の数字かを明記します。
地域とは何か
世界銀行は、国・地域を七つの地域に分けています。東アジア・大洋州、欧州・中央アジア、中南米・カリブ、中東・北アフリカ・アフガニスタン・パキスタン、北米、南アジア、サハラ以南アフリカです。地域の数字には、すべての所得水準の国・地域が含まれます。
この分け方では、東南アジアは独立した地域ではありません。東南アジアの国々は、中国、日本、韓国、オーストラリアとともに、東アジア・大洋州に含まれます。この講座では、東南アジアをASEANの11の加盟国とします。東ティモールは2025年10月26日に11番目の加盟国になりました。そのため東南アジアの数字は、国ごとのデータから組み立てる必要があり、その組み立て方が結果を左右します。
平均の作り方
比率については、世界銀行は、原則として、比率の分母を重みとする加重平均で地域の数字を計算します。欠けているデータが重みの3分の1を超える場合は、地域の数字を公表しません。世界銀行は、地域の数字を、未知の合計や平均の近似値と説明しています。
地域の一人当たりGDP = 加盟国のGDPの合計 ÷ 加盟国の人口の合計
計算例です。世界開発指標の2025年のデータ、名目の米ドル建てで計算します。ASEANの11の加盟国のGDPと人口をそれぞれ合計して割ると、一人当たりGDPは約6,100ドルです。11か国の一人当たりGDPを単純に平均すると約15,900ドルになります。約9万8,800ドルのシンガポールと約3万2,200ドルのブルネイが、人口約2億8,600万人のインドネシアと同じ重みで数えられるためです。真ん中に位置するインドネシアは約5,060ドルです。どれも正しい計算ですが、答えは三つに分かれます。
加重平均では、大きな国が数字を左右します。2025年の世界銀行の東アジア・大洋州の一人当たりGDPは約1万4,080ドルで、中国の約1万3,860ドルに近い値でした。中国が地域の人口の約6割を占めているためです。地域の平均は、地域全体よりも、最も大きな国の姿を映すことがあります。
比べる前の5つの確認
各市場の最新の数字は市場調査のページに、市場ごとの家計の指標は家計のページにあります。
- すべての国で、同じ定義の同じ指標か。
- 同じ年の数字か。
- それぞれの地域の数字にどの国が含まれているか。東南アジアは単独で示されているか、より大きな地域に含まれて見えなくなっていないか。
- 平均は加重平均か単純平均か。どの大きな国が数字を動かしているか。
- 人々への調査か、提供する機関の記録か。欠けている国はいくつあるか。
国別・家計の指標 →家計の基礎 第1回:消費者物価:総合、コア、ベース効果 →
出典
- World Development Indicators: Sources and methods (aggregation rules) — World Bank, 2026
- What methods are used to calculate aggregates? — World Bank Data Help Desk, 2026
- World Bank Country and Lending Groups — World Bank, 2026
- The Global Findex Database 2025: Methodology — World Bank, 2025
- The Global Findex Database 2025 — World Bank, 2025
- IMF Releases the 2024 Financial Access Survey Results (Press Release No. 24/400) — International Monetary Fund, 2024
- Total credit to the non-financial sector — Bank for International Settlements, 2026
- New standards, increased visibility: improving measurement of the informal economy — International Labour Organization (ILOSTAT), 2023
- Forging a New Era: Timor-Leste Admitted into ASEAN — ASEAN Secretariat, 2025
- World Development Indicators: Population, total (SP.POP.TOTL) — World Bank, 2026
- World Development Indicators: GDP per capita, current US$ (NY.GDP.PCAP.CD) and GDP, current US$ (NY.GDP.MKTP.CD) — World Bank, 2026