全8回 · 第1回
組込型金融とは何か:事業会社のサービスに組み込まれる金融
組込型金融は、支払い、融資、保険といった金融サービスを、金融を本業としない企業の商品や購買の流れの中に組み込むものです。企業は顧客とデータを持ち込み、金融機関、または企業自身がサービスを提供します。この回では、言葉の意味を定め、2つの提供の形を説明し、事業会社が取り組む理由と、最初に押さえるべきリスクを整理します。
公開 2026年10月16日 · この回を音声で聞く
組込型金融とは何か
組込型金融とは、支払い、融資、保険、貯蓄といった金融サービスを、金融を本業としない企業の商品、プラットフォーム、購買の流れの中で提供することです。顧客は、必要になったその時に、すでに使っている画面の中で金融サービスに出会います。
世界銀行に事務局を置く貧困層支援協議グループ(CGAP)は、零細小売店向けの金融についての2024年のフォーカスノートで、組込型金融は金融サービスと金融以外のサービスを一つの窓口で提供する機会を生んでいると述べています。
2つの提供の形
CGAPは、2つの提供の形を区別しています。
- 自社型の組込型金融:事業会社が、金融以外のサービスと金融サービスの両方を自ら提供します。
- 提携型の組込型金融:事業会社が金融以外のサービスを提供し、銀行、決済事業者、フィンテック企業といった1つ以上の金融機関と組んで、金融サービスはその金融機関が提供します。
提携型の中には、仕組みを提供する事業者もいます。CGAPは、より手軽に組み込める環境を提供する、バンキング・アズ・ア・サービスやAPIの提供事業者を挙げています。国際決済銀行(BIS)は、融資の提携で役割をどう分けうるかを説明しています。テクノロジー企業が顧客との接点と迅速な融資の承認を担い、銀行が資金を調達して融資を管理する形です。
CGAPは、自ら金融を提供すれば、提携先とのデータの共有と保護に伴う複雑さがなくなると指摘しています。その場合、企業はその市場が求める免許のもとで、自ら金融サービスを提供することになります。市場ごとの違いは、貸付規制の比較のページで確認できます。
事業会社が取り組む理由
BISは2019年の年次経済報告で、大手テクノロジー企業の事業モデルを、DNAと呼ぶ3つの特徴で説明しています。データ分析(Data analytics)、ネットワーク外部性(Network externalities)、相互に結び付いた事業(interwoven Activities)です。3つは互いを強め合い、利用者が増えるほどデータと事業の幅が広がり、それがさらに利用者を呼び込む循環を生みます。BISは、金融サービスはこの循環の恩恵を受けると同時に、循環を強めるとしています。
CGAPの研究は、小さな商店と取引する卸売業者や企業間の電子商取引プラットフォームにも、同じような利点があることを示しています。顧客はすでにプラットフォームに登録されているため、借り手を獲得し、管理する費用が大幅に下がります。また、融資を小売店の7日から30日の発注の周期に合わせることができます。
何を組み込めるか
BISは、大手テクノロジー企業が最初に提供した金融サービスは支払いであり、その後、一部の企業が主に中小企業と消費者向けの融資に進出し、保険やマネー・マーケット・ファンドも、多くの場合は他社の商品の販売窓口として提供していると述べています。また、こうした企業は通常、確かな顧客基盤を築いてから金融サービスに参入してきたとしています。
- 支払いとウォレット:企業のアプリや決済画面の中で、支払い、受け取り、資金の保管を行います。
- 融資:決済時の後払い、プラットフォームに出店する事業者への運転資金、卸売業者が取引先の小売店に信用で商品を卸す仕組みなどです。
- 保険:買い物、旅行、配送などと一緒に販売される保障です。
- 貯蓄と投資:企業の顧客に提供される預け入れや投資信託です。
計算の例です。CGAPは、零細小売店が前回の仕入れ額の150%まで信用で仕入れられる取り組みを紹介しています。説明のための数値で考えると、前回の仕入れが2,000だった店は、次の発注で2,000の150%、つまり3,000までの商品を信用で受け取れます。この限度額は、その店自身の仕入れの記録に基づいています。
どこで広がったか:東南アジアとほかの地域
BISは2019年に、大手テクノロジー企業の金融への進出は中国で最も広く進み、東南アジア、東アフリカ、中南米でも目立って伸びていること、そしてアルゼンチンと韓国ではこうした企業がフィンテックによる融資の大半を占めていることを報告しました。同時に規模も示しています。中国でさえ、2017年のフィンテックによる融資の実行額の合計は、銀行以外の部門向けの融資残高全体の3%未満でした。これらは当時の数値で、事業会社全体ではなく大手テクノロジー企業についてのものです。
最初のリスクと決めておくべきこと
同じ資料はリスクも挙げています。CGAPは、競争が激しくなって返済の動機が弱まったときの債務不履行のリスクと、サイバーセキュリティとデータ保護のリスクを挙げています。BISは、支配的なプラットフォームは参入障壁を高めて地位を固めうること、プライバシーの観点から個人データの利用には限界があること、そして決済システムなど一部の領域では、大手テクノロジー企業が短期間で金融システム上重要な金融機関になりうることを警告しています。
- 誰が、どの免許のもとで金融サービスを提供するのでしょうか。
- 誰が顧客のデータを持ち、どのような同意に基づいて共有するのでしょうか。
- 融資が返済されないとき、誰が損失を負うのでしょうか。
- 顧客は、誰が責任を負い、どこに苦情を伝えればよいかを、どう知るのでしょうか。
- 融資は信用情報機関に報告され、ほかの貸し手が借り手の債務の全体を見られるようになるのでしょうか。
貸付のフィンテック事業モデル(講座) →貸し手のためのAPIとシステム連携(講座) →信用情報機関の動向と与信 →貸付規制の比較 →
出典
- Empowering Small Giants: Inclusive Embedded Finance for Micro-retailers (Focus Note) — D. Kruijff, S. Sawhney and R. L. Wright, CGAP, 2024
- Big tech in finance: opportunities and risks (Annual Economic Report 2019, Chapter III) — Bank for International Settlements, 2019