全6回 · 第1回
貸付のバリューチェーン:フィンテックの貸付で誰が何をするのか
貸付はいくつかの仕事の組み合わせです。顧客に会うこと、手続きを回すこと、システムを用意すること、そしてリスクを負ってお金を出すことです。フィンテックの事業モデルの違いは、主に誰がどの仕事を担うかにあります。どのモデルについても最初に問うべきは、借り手が返済しなかったときに誰が損失を負うのか、です。
公開 2026年10月12日 · この回を音声で聞く
バリューチェーンの4つの部分
フィンテックと金融サービスのデジタル化に関するBISと世界銀行の論文は、金融サービスのバリューチェーンを4つの大きな部分に分けています。顧客との接点、バックオフィス業務、インフラ、そしてバランスシートです。貸付に当てはめると、次のように読めます。
- 顧客との接点。借り手が貸付を見つけ、申し込み、結果を知らされる場所です。支店、アプリ、店舗の決済画面、勤務先の給与システムなどです。
- バックオフィス。本人確認、与信判断、貸付後の管理、回収、苦情対応です。
- インフラ。貸付の基幹システム、決済、データの連携、信用情報機関との接続です。
- バランスシート。貸し出すお金と、借り手が返済しなかったときに損失を吸収する資本です。
分解と再結合
伝統的な銀行は、この4つをすべて自社で行います。同じ論文は、情報と通信の進歩によって金融サービスの使われ方が分解(アンバンドリング)され、提供の流れもより細かく分かれうると指摘しています。貸付で言えば、ある会社がアプリを運営し、別の会社が与信を判断し、さらに別の会社が貸付を保有する、という形です。さらに論文は、この分解を進めた多くのフィンテックが、自社で、あるいは提携やプラットフォームを通じて商品を加え、再び束ね直し(リバンドリング)始めているとも述べています。
貸し手にとっての実務上の要点は、フィンテックの貸付が、複数の会社の間の契約の連なりであることが多い、という点です。その一つひとつが、仕事のその部分について、誰が借り手と規制当局に対して責任を負うのかを決めます。
フィンテック・クレジットと主なモデル
グローバル金融システム委員会(CGFS)と金融安定理事会(FSB)の共同報告書は、フィンテック・クレジットを「電子的なプラットフォームによって仲介され、借り手が貸し手と直接結び付けられる与信活動」と定義しています。報告書はいくつかのモデルを挙げており、誰が貸付を実行するか、誰が信用リスクを負うかが異なります。
- 伝統的なピア・ツー・ピア(P2P)型。貸付の契約は借り手と投資家の間で結ばれ、プラットフォームは当事者になりません。プラットフォームは、口座開設、貸付の実行、その後の返済の管理などの手数料で収益を得ます。
- ノータリー(公証)型。提携する銀行が貸付を実行し、その貸付を投資家に売却または譲渡します。
- 元利保証型。プラットフォームの運営者が投資家の元本や利息を保証するため、信用リスクは実質的に運営者に移ります。
- バランスシート型。プラットフォーム自身が貸付を実行し、自社のバランスシートに保有します。
損失の行方を追う:計算例
プラットフォームが手数料を得て、損失を他者が負う場合、その収入は実行した貸付の量とともに増えます。共同報告書は、このような代理型のモデルでは、プラットフォームが手数料収入を得るために新しい貸付の承認に頼ると指摘しています。この動機を見るには、モデルごとにプラットフォームの損益を式にしてみるのが簡単です。
手数料型:プラットフォームの損益 = 実行した貸付からの手数料 − 営業費用。バランスシート型:プラットフォームの損益 = 利息と手数料 − 資金調達の費用 − 貸倒損失 − 営業費用。
例(数字は説明のための仮のものです):あるプラットフォームが1年の貸付を1,000万ドル実行し、3パーセントの実行手数料を取ると、手数料は30万ドルです。貸した額の5パーセントが回収できなければ、損失は50万ドルです。P2P型では、この50万ドルを投資家が負い、プラットフォームは手数料の30万ドルを手にします。バランスシート型では、同じ50万ドルがプラットフォーム自身にかかります。貸付も借り手も同じでも、どのモデルかによって誰が損失を負うかが決まり、したがって誰が「貸さない」と言う最も強い理由を持つかも決まります。
規模と地域
BISのワーキングペーパーは、2019年の貸付額をフィンテック・クレジットで2,230億米ドル、ビッグテック・クレジットで5,720億米ドルと推計しています。フィンテック・クレジットの最大の市場は中国、米国、英国でした。一方、ビッグテック・クレジットは中国、日本、韓国、東南アジア、アフリカと中南米の一部の国で急速に伸びていました。これは1つのデータベースによる2019年の新規貸付額であり、大事なのは水準ではなく、地域ごとの傾向です。
別のBISの論文は、金融サービスで広がっているデジタル・プラットフォームを3種類に分けています。新規参入のフィンテック、ビッグテック、そして増えつつある、プラットフォーム型の事業モデルをとる既存の金融機関です。それぞれが、顧客、データ、資金について異なる組み合わせを貸付に持ち込みます。
どのモデルにも当てはまる4つの問い
フィンテックの貸付の仕組みを検討する前に、次の4つの問いに書面で答えておくと役に立ちます。
- 誰が顧客に向き合い、貸付の契約書には誰の名前が載るのか。
- 誰が免許を持ち、誰が与信を判断するのか。
- 誰が、どのようなお金で貸付の資金を出すのか。
- 借り手が返済しなかったとき誰が損失を負い、誰が規制当局に対して責任を負うのか。
バリューチェーンのどの部分にどの免許が必要かは、国・地域によって異なります。各市場で何が適用されるかは、規制のページで確認できます。
国別の貸付規制の比較 →事業性の試算ツール →信用スコア 第1回:信用スコアとは何か →
出典
- Fintech and the digital transformation of financial services: implications for market structure and public policy (BIS Papers No 117) — E. Feyen, J. Frost, L. Gambacorta, H. Natarajan and M. Saal, Bank for International Settlements and World Bank, 2021
- FinTech credit: Market structure, business models and financial stability implications — Committee on the Global Financial System and Financial Stability Board, 2017
- Fintech and big tech credit: a new database (BIS Working Papers No 887) — G. Cornelli, J. Frost, L. Gambacorta, R. Rau, R. Wardrop and T. Ziegler, Bank for International Settlements, 2020
- Platform-based business models and financial inclusion (BIS Working Papers No 986) — K. Croxson, J. Frost, L. Gambacorta and T. Valletti, Bank for International Settlements, 2022